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幽霊人命救助隊/高野和明

読んだ本の好きだった部分です。あと今回のは豆知識的なのも記します。
 
自殺した4人が現世に幽霊として舞い戻り、49日の間に100人の自殺志願者を見つけ、救い出すという話。
めちゃくちゃおもしろかったです。激アツ。もうこれはこの設定を考えだした時点で勝ちですね。
さらに構成の妙。4人それぞれが自分と同じような境遇の人を救い、自らの心も救われていくという章立て。
久しぶりにこんなにクオリティの高い小説を読んだ気がします。めちゃくちゃ長いけど。
あと、養老猛の解説も良かった。
 
p55
「ちょっと待って!これじゃあ、話が山手線だわ」
 
p264
無理心中という言葉を誤解していたのだと思い知らされた。これは美談でも何でもなく、殺人と自殺が順に起こるだけの話だ。
 
p268
「強くなるしかない人って、きれいね」
 
p334
「『いじめ』だの『離婚』だの、言葉は重宝だな。暴力よりは上等に見える。だがな、あれは正真正銘の暴力だ!ぶん殴るよりも子供の心に、目には見えない深手を負わせるんだぞ!」
 
p337
人間は決して矮小な存在ではない。その逆だ。持って生まれた器が大きすぎて、外縁までたどり着くのに大変な努力を要するのだ。器の中心点だけに目が向いて、自分の小ささに震え上がる人もいる。明もかつてはそうだった。だが今は違う。怯えながら、泣きながらも、自分の猛々しさに向かって突き進んでいる。進め、と裕一は応援した。戦え。立ちふさがる敵を、すべての困難を、容赦なく叩き潰せ。
 
p410
「今を感じなさい!あなたの今を知りなさい!あなたは今、なにを望んでいるの?言葉にして!」
 麻美が涙を浮かべた。唇が震えていた。傷ついた心の奥底から、彼女の真実の声が聞こえてきた。「私は、もっと幸せになりたい」
 
p416
「他人が薄っぺらく見えてしまうのは、表か裏か、2つの面しか見ていないからよ。あなたには中間が見えていない。他人の中の悪い面を見たら、それが全てになってしまう。自分が傷つけられることを恐れて攻撃してしまう。でもね、人間は白でも黒でもない、灰色の多面体なのよ」
 
p442
ただ、善人が善人であることに理由はないが、悪人が悪人になったのには謂れがあるような気がした。
 
p446
手首や腕を何度も切り裂いて出血した結果、慢性的な貧血状態となり、少ない血液を必死に送り続けた心臓が肥大してしまったのだ。
 
p467
救助は成功したが、一同の心は重かった。助けたのは命だけだ。救助対象者の苦しむ魂までは救えなかった。
 
p484
破産者の氏名は官報にしか記載されないので、勤務先に知られる怖れはないし、当面の生活費や家財道具は手元に残して置けるとのことだった。破産とは言っても、身ぐるみ剥がれるわけではないのだ。
 
p512
お金のために死ぬのは損。低賃金でも、長く働き続けた者が人生の勝利者となる----------
 
p592
楽しいことばかりじゃないのに、辛いことのほうが多いのに、生きていてくれて本当にありがとう。
 
p602(以下養老猛の解説の抜粋)
私が好きなイタリア人の言い草がある。「どん底に落ちたら、底を掘れ」 
 
p603
あなたが死んだことを確認できるのは、あなたではない。あなたが確認できるのは、自分が生きていることだけである。あなたの死で
最大の影響を受けるのは、あなたではない。家族であり、友人である。
 
p605
この本を読んで、読む前とは別人になってくだされば、それでいいのである。本当に本を読むとは、そういうことである。別人にならなかったら、どうする。また違う本を読めばいい。生きることを、怠けるんじゃない。