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【短編】怪獣ぽちは泣きながら街を壊す

以前、2ちゃんで「誰かがタイトルを書けば誰かが設定を書いてくれる」みたいなスレで印象に残ってたのを書いてみました。 
 
拙い出来ですが読んでもらえれば幸いです。 
 
 
怪獣ぽちは泣きながら街を壊す
 
ⅰ.
「マイペンラーイ」の国で生まれ、どんぶらどんぶら船に揺られてはるばる日本までやってきたぼくの名前はぽちという。 
怪獣のぬいぐるみだ。自分で言うには悲しすぎることなんだけど、ぼくの見た目はまったくかわいくない。お世辞にもかわいいなんて言えたもんではない。 
 
そんなもんだからぼくはおもちゃ屋の店頭で必然的に売れ残っていた。しかしそんなぼくを一目で気に入り手に取ってくれたのは今の持ち主たけしくんだった。ぼくの名づけの親でもある。あのままだと何年間も売れ残り、焼却処分になる運命だったぼくを拾ってくれ、名前まで付けてくれて今までの十年間かわいがってくれたたけしくんのことがぼくは大好きだ。たけしくんが望むことなら何でもしてあげたい。ぼくにでき得ることならば。 
 
まったくかわいくないぼくを選んで十年間もかわいがってくれているという話を聞いて気付いた人もいるかもしれないけれどたけしくんはちょっと変わっている。十五歳にもなって怪獣のぬいぐるみに毎晩自分の夢を語りかけてくるし、その夢もその夢で「ウルトラマンとか仮面ライダーみたいなヒーローになって地球に迫りくる脅威を取り除きたい」というものだ。はっきり言ってバカげているけどぼくはその夢をかなえてあげたいと本気で思っていたし、たけしくんも本気でヒーローになれると思っていた。ぼくの思いが強かったせいか、たけしくんの思いが強かったせいか、それとも2人の思いが合わさってなんらかの特別な力が発揮されたせいなのかは定かでないけれど、唐突にその夢はかなえられた。 
 
 
 
ぼくが本当の怪獣になることと、たけしくんが本当のヒーローになることによって。 
 
 
 
今こうしてこの話をできているのもぼくが本当の怪獣になれたおかげだ。
 
 
ⅱ.
ある日の深夜、すやすや幸せそうな寝息を立てているたけしくんの部屋の窓からなんだかよくわからない光の玉みたいなものが入り込んできた。それはとても綺麗であたたかそうで、見たものに「触ってみたい」と思わせるような不思議な引力を持っていた。 
 
そのころのぼくはまだ自分で動くことができなかったので宙にほんわりぽやぽや浮かんでいる玉をぼんやりと眺めるくらいしかできることはなかった。玉はしばらくの間ほんわりと宙に浮かんでいると、急に2つに分裂した。1つはたけしくんの胸の上に、もう1つはぼくの胸の前まで飛んできた。そしてそれらの玉は同時にぼくたちの胸の中に入り込んできた。 
 
体の中に光の玉が入り込んでくると、自分の意志で体を動かすことができるようになった。と同時に頭の中に「怪獣ぽちよ。街へ出よ。さすればあなたとたけしの望みはかなえられるであろう」という変な声が響きだした。それは何度も何度も何度も何度も頭の中で繰り返されて、その声を聞いているうちにぼくの考えもだんだんと声に従う方向へ向かっていき、家の外へ出るのは少し怖かったけれど、ぼくは一人で外に出た。そうすると頭の中の声は止み、ぼくは巨大化した。それはぼくの怪獣デビューだった。 
 
 
 
誰からも祝福されない怪獣デビューだ。
 
ⅲ.
巨大化したぼくには意識はあったのだけれど、どういうことか体が思うように動かない。手も足も、声でさえも思い通りにはならなかった。野放しの手足はぼくの意志とは裏腹に家を壊しビルを壊し橋を壊し駅を壊しながら街の中心地へと進んでいく。 
 
 
ぼくはこんなひどいことなんてしたくない。それぞれの人にはそれぞれの生活があって、それぞれの物にはそれぞれ刻んできた歴史がある。それは大切なもので、決して軽々しく扱っていいものではないのだ。 
 
 
なんて考えるぼくは暴走する体を止めることが出来ずに壊されていく殺されていく街や人を呆然と眺めているしかなかった。「誰でもいいから止めてくれ」そんなことを考えていると大地を揺るがす大きな音がした。それは巨大な何かが着地したような音で、その発生源を確かめようとぼくが振り返るとそこにはいかにもヒーロー然とした人型のなにかがいた。 
 
ぼくの、言うことを聞かない体は、それとしばらく向き合っていた。するとしびれを切らしたかのようにヒーロー然としたそれはぼくのことを退治しようと問答無用でパンチやキックやチョップといった格闘技、おでこから出るレーザー光線や腰の球体から作り出す重力球といったかっこいい技、その他多彩な攻撃をしかけてきた。ぼくはぼくでおぞましい雄たけびを上げながら必死の抵抗をするのだけれど、やっぱり怪獣はヒーローには敵わない。そういう風に出来ているのだ。この世の中は。額、胸、腰にあるそれぞれの球体から出た光が1ヵ所に集まり、それがぼくを貫いたところでぼくの意識は途絶えた。多分あれはウルトラマンで言うスペシウム光線みたいなものだったんだろう。 
 
 
朝、だった思う。意識を取り戻すと興奮して鼻をフンフガ鳴らしているたけしくんの顔がぼくの目の前にあった。たけしくんはあんまり感情を表に出さない子供で、それは学校の友達はもちろん、家族にさえ、果てはこのぼくにだってそうだ。だから、あんなに興奮しているたけしくんを見るのは初めてなのと、目覚めていきなり顔のどアップが視界を支配していたから少しびっくりした。 
 
 
そして、そのびっくりが通り過ぎて行った後に、ぼくは一つの真実を悟った。 
 
 
 
昨日、ぼくを倒したヒーローはたけしくんだったのだと。
 
ⅳ.
と、ここまでがぼくとたけしくんに起こったことの経緯だ。 
 
当時のぼくは「どうせ一回きりのことだろう」と甘い見通しを立てていたんだけれど、それからも「頭の中の声」は一週間に一度くらいのペースで響いてきて、ぼくはそれに逆らうことが出来ずに怪獣になり、街を壊し、人々の生活を壊し、たけしくんにやられ続けてきた。 
 
テレビを見ていて気づいたが、ぼくは毎回違う姿の怪獣になってみんなの平和を脅かしているらしい。なのでたけしくんには怪獣の正体がぼくだということはバレていない。ぼくとしてはバレて処分されたいと思っている。もう怪獣になんてなりたくない。心を痛めながら街を壊したくない。街に住む人たちの悲鳴で耳を傷めたくないのだ。でも、そんなことをすればたけしくんは悲しむだろう。ぼくがいなくなってしまうし、ヒーローになる必要も無くなる。 
 
今ではもう怪獣になっても自分の意志で体を動かせるようにはなった。
怪獣になったぼくは自分の意思で街を壊している。一度怪獣になってしまったらたけしくんに倒されないと元には戻れないし、なによりも怪獣を倒した翌日のたけしくんが本当に喜んでいるから。やっぱりぼくはたけしくんの喜んでいる顔が見たいのだ。 
 
 
初めて怪獣になった時から今まで、ぼくは怪獣になるたびに泣きながら街を壊している。あの頃と今ではずいぶんと心境が変わってしまったけれど、泣きながら街を壊していることには変わりはない。そんな時、ぼくは自分に言い聞かせるのだ。「怪獣ぽち、お前はマイペンライの国で生まれたんだ。忘れるな、世の中マイペンライだぜ。心配ないさ」と。
 
 
そうでもしないと頭がおかしくなりそうなのだ。 
 
 
あぁ、今日も頭の中で声が言っている。街へ出て、街を壊せと。たけしくんの望みを叶えてやれと。やってやろう。 
 
 
ぼくは怪獣、怪獣ぽち。怪獣ぽちは泣きながら街を壊すのだ。

ネット上での産声

みんなは初めてインターネット上に投稿した人に読ませるための文章って覚えてる?
 
俺ははっきり覚えてる。
 
 
 
「お前もメンバーに入れておいたからさ」
「は?なんの?」
「前略みてーなやつ」
 
朝、学校に行くと友人のSが言った。
19歳だった。今から9年前だ。当時はSNSがそんなに流行っておらず、「前略プロフ」とかいうのが全盛期だったらしい。らしいというのはそういったものに興味がなさすぎたし、その頃は毎日2ちゃんねるにどっぷりで、思考が汚染されまくっていたので前略的なものをやるやつのことを完全にバカにしていたからどれだけ流行っていたのかはわからない。でも、みんなやっていたように思う。
いつの間にかメンバー入りしていたそれにはクラスで特に仲の良いやつらの名前が並んでいた。
 
「お前もなんか書けよ」
「やだよ、めんどくせー」
「いいから」
「こういう風に自分のこと不特定多数に晒すのって恥ずいじゃん」
 
当時の俺には現状を見せてやりたい。お前その1年後くらいにはmixiで無茶苦茶なこと赤裸々に書きまくってるからな。ススキでオナニーしたら金玉かぶれたとか金玉にキンカン塗ったとか最低な類の文章めっちゃ書いてるからな。1000個以上書いてるからな。って言ってやりたい。どんな顔をするんだろうか。
話が脱線したな。
 
上記のもの以外にもう一つ書きたくない理由があった。1年前に普通高校に通っていた友人たちが前略経由で学内喫煙が教師にバレて一発退学という事件があったのだ。バカッターの先取りかよ。7,8年近く早くそんなことになってるなんて先見の明ありすぎだよ。SEGAかよ。まぁ、俺の友人たちは巻き添えになったらしいんだけどさ。
そんなこともあってマジでなにも書きたくなかったんだけど、他のメンバーもなんだかんだで楽しそうになんかいろいろ投稿してるし、なんの動きも見せていないのは俺だけ、みたいな状況になっちゃって、書いたんだ。
 
 
きょうは、ともだちからサッカーボールをもらいました。うれしかったです。
 
 
って書いた。
これぞ俺が人生で初めてインターネットに投稿した文章。\いよっ!/
いわばこれがネット上での俺の産声である。\かっこいい!/
 
とか言ってるけど、クソ過ぎんだろ。なんだよこれ。確か恥ずかしいのをカモフラージュするのと「どうせ誰も興味がない情報を載せるんだったら徹底的に無意味にしてやろう」って思って書いたんだっけかな。あ、小学生の感想文的な感じにすれば結構面白いんじゃないかとも思った気がする。まぁ、そのグループ内では結構ウケた記憶があるんだけど。
 
あの頃はこんなに文章書くようになるとは全く思わなかったなぁ。
みんなのネット上での産声はなんだろうか。
 

スクリーンショットの落とし穴

こないだ、出勤途中に自販機でお茶を買ったんです。

130円のものを150円出して買いました。そうすると20円のお釣りが出てきますよね。

それがですね、出てこなかったんですよ!ムキーーーーー!っていう話ではなくて、お釣りを取るためにはしゃがまなくてはいけません。

そしたらね、落ちたんです。胸ポケットから俺のスマホ(Nexus5X)が!ガラス面を下にして!

 

ちょっと話は変わりますけど、スマホって往々にして画面を下に向けて着地したがりませんか?お前はバター猫のパラドックスにおけるバターを塗ったトーストかっ!って感じですよね。

いや、まぁ、恐らくそういう事実は特になくて人の記憶に残りやすいのがそういった場面なんだろうけどね…HAHAHA!ってことにしてこの話お終いにしようと思ったんですけどWikiちゃんと見たらトーストがバター面を下にして落ちがちだっていうのを真面目に研究してイグノーベル賞を取った研究者がいるとかいうので「えぇ…」ってドン引きしてます。

あとこの例えって理解できてる人います?結構気に入ってて、日常生活でも積極的に盛り込んでいってるんですけど「バター猫のパラドックスにおけるトーストかよ!」って言うと95割の確立で「はぁ?」とか「なに言ってんだこいつ?」とか「日本語しゃべれよ」とか「デブですね」みたいな顔されるんですよね。まぁ、気に入ってる本人も「伝わりにくすぎるの過ぎるのが唯一の欠点だな」って思ってるんですけど。えぇ、例えとしては本末転倒すぎる結果ですよね。

 

話を戻しまして。

スマホ落とした瞬間、「画面割れてんじゃね?」って嫌な予感はしたんですよ。

まぁ案の定ですよね。割れてました。画面、割れてました。

「こんなことがあったんですよー。とほほー」みたいな感じの内容でブログ書こうと思って昼休みにスクリーンショット取ったんですね。割れてますよって写真としてアップしようとして。

で、帰宅後その画像パソコンに取り込んだら、割れてないんです。画面的に割れてる部分が、割れてないんです。

「え?今まで白昼夢見てた?」って思ってスマホの画面見ると割れてるんですよね。そんで「白昼夢は見てなかったようだな」ってパソコンの画面に目を戻すと割れてないんですよ。

正直、意味わかりませんでしたね。「キツネかタヌキ、俺の部屋にいる?」って思って部屋の中を見渡してもなにもいません。

「怖いなー、怖いなー」って思ってパソコンの画面とスマホの画面を並べて見比べた時、「あっ」って気づきました。それもそのはず、スクリーンショットって「画面自体の画像を保存する」のではなくて「画面に映しているものを保存する」技術なんですよね。

 

悲しくなりました。「俺、アホじゃん」って悲しくなったのでベロベロになるまで酒飲んで眠りにつきました。

文明の利器に頼りすぎると、人間ダメになるという話でした。

街角写真を供養する。

写真ってのはすでに完全に生活に根付いている。

便利な時代だよな。今やほとんどの人が携帯電話を持っていて、それらには大体カメラ機能が備わっている。15年前には考えられなかったわ。こんなに写真やら動画やらが氾濫する世の中になるなんて。

街中には「ちょっとおもしろ」がたくさん転がっている。生活する中でそれを見つけた時「おっ」と思って1枚パシャリ、そんなことないだろうか。

街角のちょっと変なもの、たまたま立ち寄った店で琴線に触れたもの、あとで友人に見せようとして、SNSに投稿しようとして、忘れさられてそのままになっている、スマホの奥底で眠っている、そんな写真はないだろうか。

 

Googleフォトの整理をしていたらそんな写真が結構出てきたので供養的な感じでこの日記で紹介したいと思う。

 

 

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後輩くんといっしょに秋田から仙台に帰ってきたときに立ち寄った「たいらん」というラーメン屋にいたマネキン。名札には「ルミコ」と書いてある。行きつけのスナックのママさんと同じなのが面白くて撮った。

 

 

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3枚同時に。

盛岡市内にある神社の狛犬。雑というか適当というかほのぼのというか、絶妙な愛嬌があるのが面白くて撮った。江戸時代だか明治時代だかにパンピーが作って奉納したらしい。このクオリティで畏れ多いとか思わなかったのかよ。でも、一生懸命作ったんだろうなっていう気概が伝わってきて素晴らしい。

 

 

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トロンみたいな自転車。それだけ。本当にそれだけ。最近中々見かけるタイプのチャリだよね。

 

 

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スナックでL'Arc~en~Cielを知らないジジイが知ったかぶりして発言したときに口から出た言葉感がある看板。パン屋だった。COOPによく引っ付いている。

 

 

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秋田市上下水道局のマスコットキャラらしい。の割に無茶苦茶気持ち悪くねーかって思ったので撮った。この写真に写っているのは「二男」、「三男」、「四男」なんだけど、近辺をいくら探しても長男が見当たらなかった。恐らくこの一家の闇は深い。

 

 

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盛岡に近年できたSPORTS DEPOの看板。

赤地に白抜き部分が

 

NEWクラブ

合わなかったら

買い取ります

 

と七五調になっており、日本人の潜在意識にあるHAIKUの心を感じ取った。

 

 

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2枚同時に。そして俳句つながり。山形県の天童あたりで催されたこども俳句コンテストの結果発表がなされていた。

猫の鈴風鈴の音と重なって

この句がとても気に入ったので撮った。なんて素敵な感性だろうか。寸評にも書いてあるけど、この、夏の一場面の感動を切り取って俳句にする感性は見習いたい。そしてこの子にはこれを忘れずに持っていてほしい。

2枚目はなんとも小学生らしくかわいらしい句だったので撮った。

 

 

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この自販機から飲み物を取り出すときにアンパンマンがエグすぎることになるじゃねーかと思って撮った。こんなん、子供泣くんじゃねーの?

 

 

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現場の近所にある落書き。完全にちんこであり、しかもかなりの巨根であることが伺える。あとパイパンだ。

 

 

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近所をランニングしていたら見つけた謎のカラーコーン。こんなん深夜に遭遇したら怖くて声あげちゃうよ。

あと、なんかガッシュに出てきそうな見た目をしている。ヴィクトリームとかキース系列の見た目しているよね。

 

 

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多賀城の環境ガイド人「エコ博士」の看板。「なんだこいつ?」感がすごい。こんなやつに環境に関してガイドされたくねーわ。結構至るところにこの看板があるんだよね。面白くない?

 

あと、このジジイが探検隊みたいな服着てんのも謎、とか思ってよく見てみると

 

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ベルトをよく見てみると

 

 

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ISOのベルトしてるんだよね。

なんだよそれ。ISO(国際標準化機構)のベルトとかこの世に存在すんのかよ。しかも、ISOって環境に関してほぼ無関係じゃねーか。わけわからなすぎるよ。

 

 

 

 

と、ここまで15枚の街角写真を紹介してきたけれど、どうでも良すぎる画像の陳列になってしまったね。

これ読んでくれた人たち、虚無的過ぎる時間を過ごさしてしまった。ごめん。反省はしないけどさ。

でも、街中の「ちょっとおもしろ」を発見する感性ってのは失いたくないので、これからもこういうどうでも良すぎる写真を撮りためては定期的にアップしていこうと思っている次第である。

 

あなたへ

あなたはいつもそばに居てくれた。
全てを忘れ去ってしまいたくなるような悲しい夜も。孤独で心が満たされてはちきれてしまうんじゃないかと思うくらい寂しい夜も。数え切れないほどのつらい夜をあなた共に乗り越えてきた。本当にいつもそばに、隣に寄り添ってくれていた。というよりも私があなたに寄りかかっていた、と表現した方が正しいのかもしれない。そう、ほとんど依存と言ったような方が良い関係だったと思う。でも、あなたと過ごした7年間はとても甘美で尊い日々でした。ありがとう。こんな私を支えてくれて。感謝してもしきれない。ほんとうにそう思うよ。
 
あなたと距離を取ってから3ヶ月ほど経つ。
 
それは突然のことで、私はなぜかあなたのことを受け止められなくなってしまった。好きではある。それは今も変わらないし、これからもその思いは変わらない確信はある。でも、なぜか身体が拒否反応を起こしてしまうのだ。多分、あなたの麻薬的で人工甘味料的なやさしさに耐えられなくなってしまったのだと思う。心と身体の認識の誤差を埋めようと努力はしてみたけれどやっぱりダメで、ほんとうに自分勝手ではあるのだけどあなたと距離を取るという決断を下すしかなかった。
 
最初は不安もあった。つらい夜は突然やってくる。それは姿の見えない獣が無作為に牙を剥いてくるようなもので、私にはどうしようもない。それをあなた無しで乗り越えられるのだろうかと、とても不安だった。今はなんとかなっている。あなたはまだどこかにしっかりと存在している。そう考えると、そう考えるだけで夜への不安も薄まってはくる。でもやっぱり耐えられない夜もあるんだと思う。そんな時は以前と同じようにあなたに寄り添ってもらいたい。
 
今ではもうどこのコンビニでも大体売ってるしね(笑)
 
そう、君の名は、
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
なんだか最近缶チューハイを身体が受け付けなくなってしまって7年間ほぼ毎日500缶を2本は飲んでたのにやめた。なんかあの甘みが気持ち悪くってさ。まぁ、全く飲めないってほどではないけど。今は焼酎を自分で割って飲んでいる。
なんでも最近ALC12%とかいう暴力的度数のストロングゼロサントリーから発売されたらしい。
そんなんもう麻薬より悪質だろ。絶対体壊すって。サントリーは日本の内側から転覆を目論む反社会的勢力かよ。警察はさっさと取り締まれ。というのは冗談だけどさ(笑)
いやね、そういうもんが発売される前にストロングゼロから手を引けてよかったと思う。絶対飲みまくってたわ。
まぁ、これから先出張あったりしたらまだまだお世話になりそうではあるんだけどさ。とにかく平日はもうほとんど手を出すことはないと思う。
 
あと、最初の方の文章に関してはストロングゼロ文学とかいうのが流行っているらしいので便乗してみました(笑)頭おかしくなったと思った?ある意味正しいかもね。
俺は、とっくに、ストロングゼロでイカれてしまっているのさ。
 

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ジェイソン・ブラウン

昨日は本当にたまたまだった。
帰宅して風呂に入って一発抜いたらそのまま寝てしまっていたようで寒さで目を覚ます。
点けっぱなしだったテレビを見てみるとフィギュアスケートが流れていた。
 
飯でも食うかとひじきの煮つけ、玉こんにゃく、切り干し大根を皿に盛り付けテーブルに着く。おっと、ほうれん草のおひたしを忘れていたなと思い冷蔵庫に取りに行こうとして立ち上がるとオネエみたいな選手が画面に写っているじゃないか。なんかりゅうちぇるっぽいな、ちぇるちぇるランドの出身かな?とか思いながら作業を再開しようとすると彼の演技が始まった。
 
度肝を抜かれた。全く目が離せない。ジェイソン・ブラウンとかいうのか、なんだこいつは。
 
技術的なものなんてよくわからないけれど、異常なくらい人を引き込む滑りだと思った。優雅でダイナミック。そして本当に楽しそうに滑る。表現力ってこういうもんなんだなと理解できる滑りだった。
ほうれん草のことなどしばし忘れ、彼の演技に食い入っていると、なにかが頬をつたう。涙だ。
 
え、マジかよ。俺、フィギュア見て泣いてんのかよ。
 
初めての経験だった。元々フィギュアスケートは結構好きで、4,5年前までは結構見ていた。最近はそんな心の余裕もなく見れていなかったけど今までこんなことなかった。そりゃ、荒川静香が金メダル取った時とかのさ、そういう結果ありきで感動して涙ぐんだりしたことはあったよ。でもさ、純粋に演技だけ見て泣くなんて思いもしなかったわ。しかも自然に「スッ」と涙が頬をつたうような泣き方。本当に感動してるんだなって感じじゃん?まぁ実際本当に感動したんだけどさ。
終盤に入ると、演技が終わる前なのにもかかわらず観客からの拍手が起こっていた。やっぱり観客もわかっているんだなと思った。
 
彼の最終的な成績は6位だった。
彼が今やっているのは競技スケートであり、点数によって順位が決まるが、こういったスポーツの本質ってのは違うわけだと思う。「どれだけ人の心を打つのか」、ここが重要な点であり、彼は、ジェイソン・ブラウンはそういう意味ではマジもんの天才じゃねーかと晩飯を食いながら思った。
 
あ、今思い出したんだけど昨日ほうれん草食い忘れた。
 
 
演技が終わる前の観客たちのスタンディングオベーションたるや。
 
 
 

【短編】手袋

私はいつも手袋を忘れてた。 
 
東北の冬は刺すように寒い。 特に私は寒がりで、手袋なしでは指がかじかむ。冬なんて来なきゃいいのにって毎年思う。雪は白くて綺麗だから好きだけど。 
 
私は寒がりのくせになぜだかいつも学校へ行くとき手袋を忘れてしまう。かじかむ指をこすり合わせて「さむーい」なんて言っていると隣を歩く宗一郎が「大泉、お前毎日じゃん」なんて言いながら制服のお尻ポケットから軍手を取り出して渡してくれる。 
 
 
「明日は忘れんなよ」 
 
 
なんて言ってさ。でも渡されるのが軍手だから何もときめかない。
 
そんなところがバカっぽくてかわいくて 
 
でも、やさしくて 
 
私はそんな宗一郎に惚れたのだ。 好きなのだ。 
 
軍手を受け取り手にはめた私は素直にお礼を言うのが照れくさくって「ほんとはもっとおしゃれなのがいいんだけどなー」なんて文句を垂れる。でも、あたたかな軍手に包まれた私の両手はぬくぬく幸せだ。 
 
多分、このあたたかさは軍手だけによるものではない。宗一郎のやさしさに触れた私の心の温度が上昇しているからこんなにもあたたかいのだと思う。 
 
 
「贅沢言うなよ」とぶつくさ文句を言う宗一郎のことをはいはいごめんねという風になだめすかしながら軍手を眺める。 
 
軍手は白い。雪と同じだ。私が毎日はめているから少し汚れはついているけれど、そういうところも雪と似ている。雪も積もって時間が経つと汚れがついて黒ずんでくる。 
 
軍手の白い部分から少し視線を落とすと、手首の辺りにある黄色い線が目に映る。 
 
「はあ」と私は大きなため息をつく。 
 
宗一郎が「クリスマスも直前なのに彼氏もいないからため息ついてんの?」と茶化してくる。「うっさい。黙って」と心にも無いことを言い返し、私は少し物思いにふける。 
 
 
軍手の手首の黄色い線は私と宗一郎の恋愛境界線だ。 
 
 
私はその線の3㎝後ろくらいに突っ立っている。宗一郎はその遥か前方にいる、ように思う。 
 
私はいつも宗一郎に向かって踏み出してしまいそうになるのだけれど、すんでのところで踏みとどまる。 
 
多分今の関係が一番楽だし落ち着くし、嫉妬もしなくて済む。苦しくなくて済む。悲しくなくて済む。だから気持ちは伝えない。 
 
っていうのは言い訳で、ただ単に怖いのだ。気持ちを伝えて、振られて、関係がぎくしゃくして、壊れてしまうのが怖いのだ。そんなことになるくらいだったらあふれ出しそうになる気持ちを無理やり押さえつけてでも今までどおりに宗一郎の横で楽しくやっている方が幸せだ。 
 
 
 
でも 
 
「ほんとうにそれでいいのかな」とも思ってしまう。 
 
軍手は雪と似ているけれど、人の気持ちはどうなんだろうか?私の宗一郎に対する思いもこのまま放置していると汚れがついて黒ずんでくるのだろうか?それとも雪のように溶けていってしまうのだろうか?わからない。 
 
このままだとそのどちらかが現実になりそうで怖い。まあ私の気持ちがいくら黒ずんでも宗一郎を刺したりなんてしないだろうけど。 
 
と、ここまで考えた時、宗一郎が口を開いた。 
 
 
「大泉さ、お前先週桑原に告られたでしょ?」 
 
「うん、そうだね」 
 
「なんで振ったの?あいつ良いやつだし、かっこいいじゃん。すげー音痴だけど、笑えるくらい」 
 
 
「お前のせいだよバカ宗一郎」 
 
と怒りたかった。こいつはいつもそうだ。デリカシーの欠片もない発言で私の痛いところを逆なでしてくる。狙ってやってるんだろうか? 
 
 
「つーかあんたなんでそんなこと知ってんの?」 
 
「相談乗ってた」 
 
「あ、そうなんだ?」 
 
宗一郎のやさしさは八方美人だ。道を行く子供にも困っているおばあちゃんにもクラスメイトの男の子にも後輩の女の子にも、そのやさしさは向けられる。私も含めて。だからなのか結構モテるし、男の子からも相談される。 
 
 
昔、なんでそんなにいろんな人にやさしくするのか聞いてみたところ 
 
 
「知ってた?愛は地球を救うんだって」 
 
 
と言われたことがある。頭がおかしいのかと思ったけれど、多分宗一郎はそれを本気で思っているのだ。宗一郎のやさしさは天然なのだ。 
 
 
それにしても凹む。 
 
いくら天然で八方美人なやさしさだからって私に対する恋愛の相談には乗らないで欲しかった。恋愛相談に乗るということは桑原君と私が付き合ってもかまわないっていう風に思っていることに他ならない。ということは、私は宗一郎にとって恋愛対象外であるということなのだ。 
 
これは凹む。がっくし来る。恋愛境界線の後ろで立ち止まっている私の遥か先を行く宗一郎の姿がますます遠ざかっていく。今日は一日暗い気持ちで過ごすことになりそうだ。 
 
 
とまたここで宗一郎が口を開く。 
 
 
「なに考えてんの?」 
 
「ん。あんたがなんでそんなにいろんな人にやさしくすんのかなって」 
 
「あれ?前も言わなかったっけ?「愛は地球を救う」って」 
 
「あんた1人で救えるはずもないじゃん地球なんて」 
 
「そんなん知ってるよ。俺だってガザ地区とかにいる恵まれない子供たちとか救いたいとか思ってるわけじゃないし、つーかあまりにリアリティがなさ過ぎて想像するのも無理。だからせめて自分の半径片手メートルに入る人たちには優しくしたいなって」 
 
「なにその半径片手メートルって?」 
 
「メタファー。自分の身近な人の」 
 
「変なの」 
 
「なんだよその言い方」 
 
 
 
宗一郎の「恋愛相談乗ってた発言」により悪くなりかけていた私の機嫌は宗一郎の「半径片手メートル発言」によっていくらかよくなる。「半径片手メートル」っていう比喩表現は謎だし、バカっぽいけど、とにかく私は宗一郎の身近な人の1人ではあるらしい。 
 
 
そうこうしていると校門が見えてくる。 
 
 
つまらない授業は聞き流し、昼休みとかはクラスの友達と楽しくお話をして放課後になる。私は今週掃除当番で、友達と休み時間の続きを話しながら掃除を適当に済ます。じゃんけんで負けた私は今日のゴミ当番になる。ゴミ捨て場に到着し、さてゴミを捨てようかという私の目にまさかの光景が映る。 
 
 
 
宗一郎 
 
 
と女の子。しかも1個下の学年で一番かわいい娘。真澄ちゃんって言っただろうか。 
 
これ絶対あれですよね?クリスマス前だし、告白タイムってやつですよね?やばくないですか?あんなかわいい娘に告白されたらいくらなんでも付き合っちゃうでしょ宗一郎。 
 
真澄ちゃんが口を開く。私はその光景を目前にして、校舎の陰で動くことができずにいた。 
 
「宗一郎先輩」 
「うん」 
「あのう…」 
「うん」 
「クリスマス、予定はありますか?」 
 
あー、やっぱりね。 
 
「ない、と思うけど」 
 
だろうね。 
 
「じゃあ、クリスマス、私と一緒に過ごしてください!前から好きでした!あの、一緒にストラップ探してくれた日から!」 
 
真澄ちゃん、言った。すごい。私には無理だ。そんな勇気ない。 
 
そしておめでとう宗一郎。かわいい彼女ができてよかったじゃ 
 
「あ、ごめん。それは無理」 
 
私の諦めの思考を遮り、宗一郎の口から耳を疑うような言葉が発せられた。 
 
「俺、君とは付き合えないから」 
 
宗一郎の口から、トドメの冷たい一言が放たれる。 
 
真澄ちゃんは肩を震わせて泣いてその場に立ちすくんだ。 
 
宗一郎は泣いている真澄ちゃんにはなにも言わずにその場を去った。多分家路についたんだろう。あいつ、今日は部活も休みだって言ってたし。 
 
私は校舎の陰から走り出し、泣いている真澄ちゃんには気づかないふりをしてゴミを捨てて、教室に戻ってゴミ箱を戻してカバン取って一緒に帰ろうっていう娘たちを全部無視して走り出した。 
 
宗一郎に追いつくために。 
 
校舎を出るまで気が付かなかったけど、例年より少し降るのが遅い雪がちらちらと空から舞い降りてきていた。 
 
今年はホワイトクリスマスになりそうだ。 
 
そんなことを考えているうちに宗一郎に追いつく。 
 
私は「宗一郎待って」と声をかける。 
 
宗一郎はやさしいから立ち止まってくれる。そんなトコロも好きだ。 
 
「あ、大泉、一緒に帰」 
 
私は宗一郎に追いつくなりその頬を思いっきりひっぱたいた。なぜかはわからない。真澄ちゃんと私を重ねていたのかもしれない。 
 
「あんたほんとなにやってんの?」 
「お前こそなにす…」 
「あんたさ!真澄ちゃんだっけ?あんなにかわいい娘があんなに勇気振り絞って告白してたのになんなのあの断り方!」 
「見てたんだ?」 
「見てたわよ!そこは謝るけど、とにかくなんかもっと他に断り方あったでしょ!」 
 
 
言い出したら止まらなかった。なんで私はこんなに怒っているんだろう 
?私と真澄ちゃんは関係ないのに。やっぱり真澄ちゃんに自分を重ね合わせているんだろうか。 
 
怒る私の前で宗一郎は頬をおさえながら口を開いた。 
 
 
「だって、お」 
「だってじゃないでしょ。あんたのこと好いてくれた娘なんだからあんなに冷たくすることないでしょって」 
「だからさ」 
「だからなによ!なんか言いたい事あるんだったらはっきり言い」「お前が好きだ」 
 
 
 
は?オマエガスキダ?ってどういう意味だっけ? 
 
 
「え?なにそれ?どういう意味?」 
「だから、お前のことが好きだって」 
「お前って私のこと?」 
「他にいないだろ。今ここに」 
「っていうことはどういうことなの?」 
「付き合ってってこと」 
「私と?宗一郎が?」 
「うん。大泉と、俺が」 
 
 
やばい。意味わかんない。意味わかんない衝動に突き動かされて、意味わかんないまま、意味わかんないくらい怒って、これだけでも意味わかんないことがたくさんありすぎるくらいなのに今また意味わかんないことが起こった。 
 
意味わかんないながらも嬉しいことだけはわかる。 
 
なぜだかわからないけれど私は泣き出してしまって、声なのか泣き声なのか区別のつかない感じで「うん」と答えた。 
 
 
私が落ち着くまで、宗一郎と私は近くの公園のベンチに腰掛けていた。 
 
宗一郎は「ちょっと待ってて」と言うと両手にあったかいココアを持った来てくれた。 
 
ココアが冷めてきた頃には私の昂った感情もいくぶん冷めてきたようだった。 
 
 
「あのさ」 
「ん?なに?」 
「雪、きれいだね」 
「うん。そうだね。」 
「あのさ」 
「うん?」 
「大泉、泣き顔ブッサイクなのな。笑っちゃいそうだったわ」 
「うるさいなー」 
「つーかさ」 
「うん」 
「なんであんなに泣いてたの?」 
「それ、今聞くことじゃないでしょ。空気読めなすぎるわよ」 
「え?そうなの?でも気になるじゃん」 
「宗一郎っぽいね」 
「そうかな?」 
「うん。ぽいよ」 
「で、なんでなの?」 
「まぁ、いいか。ちょっと恥ずかしいけど」 
「うん。いいんじゃない?あの泣き顔の後だし」 
「だからその話ししないでよ!でさ?宗一郎、桑原くんの相談乗ってたって今朝言ってたじゃん」 
「あぁ、うん。言ったね」 
「それ聞いて対象外だなって」 
「あー」 
「つーかさ、なんで桑原くんの相談乗ったの?私と桑原くんがくっついたりするとか思わなかった?」 
「思ったよ」 
「じゃあなんで相談乗ったの?」 
「フェアじゃないじゃん。俺が大泉のこと好きだからって、桑原の邪魔するのはよくないだろ」 
「あー、うん。たしかにそうだね」 
「でしょ?」 
「でも、あんたやっぱりバカだよね」 
 
 
「そういうところが好きなんだけど」 
 
とは言わずに私はベンチから立ち上がる。 
 
少しずつ降り積もってくる雪の中を歩き出す。 
 
宗一郎も追いついてくる。 
 
「もうすぐクリスマスだね」 
「あー、そうだね。なんか欲しいもんある?」 
「んー、今はまだいいや」 
 
 
欲しいものはたくさんあるけれど、今の私は頭がいっぱいだ、そこまで考えが回らないし、宗一郎と一緒に入れるだけで満足なのだ。 
 
 
「あっ」と私は思い出したように声を上げた。 
 
 
 
「やっぱり欲しいものあった?」 
「ううん。そうじゃなくて、寒いから、軍手、かしてほしい」 
「そういえば今日も忘れてたもんな」 
 
 
 
宗一郎が制服のお尻ポケットから軍手を取り出し私に渡す。私はそれを手にはめる。やっぱりぬくぬく幸せだ。 
 
私は空に手をかざして軍手を眺める。軍手は降ってくる雪みたいに白い。視線を少し落とすと軍手の手首の黄色い線が手首をぐるっと一周している。その線を見てももう、私の口からため息は出なかった。これからも出ないんだと思う。 
 
軍手の黄色い境界線は軍手の黄色いスタートラインに変わったのだ。私と宗一郎の。 
 
 
 
「うん」 
 
 
そう言ってから私は一歩踏み出した。 
 
今日まで嫌いだった冬も、少しは好きになれそうな気がした。